厳しさ。
こんなに厳しいオリーブ農園を見たのは初めてです。
生産者のファッダ氏は言います。
この土地はあまりに過酷で、農作物で育つのはオリーブとぶどうだけ。と。
その言葉どおり、野生種のオリーブが山には沢山生えています。
こうして、岩を割るようにして生えている樹も。
ファッダ氏は「スパッカ・ピエトレ」と呼んでいました。スパッカとはスパッと割ること。ピエトレは石。
オリーブの力で岩が割れたんだ。と彼は言いますが。
根本は岩を巻き込むようにして育っています。
今年は特に少雨の為に乾燥しており、厳しさが倍増してはいますが、もともと荒れた土地。
歴史上の理由もあり、とにかく岩や石が多い土地です。
ローマ時代から戦争を繰り返してきた土地、外敵から守るため、塀や遠くを見渡すための塔がとにかく数多くあります。
それらは全て大きな岩や石で造られていました。
当然山にはそれらの遺跡が。
遺跡というと良いイメージですが、農家にとっては邪魔でしかありません。
大変な労力でそれらの岩を取り除き、耕す。3m以上掘り起こすそうです。
そして、ようやく植樹したオリーブの樹ですが、こうした山には電力設備が無いため、灌漑設備が稼働しないのです。
灌漑設備だけ整え、あとは電力が来るのを気長に待つしかない。とファッダ氏。
これは、彼の父親が植えた樹。
原種のオリーブに二種の品種を接ぎ木しているため、右と左では別の品種が取れます。
彼の父親の頃は品種についての研究もまだまだ進んでいませんでしたから、一種の実験だったのでしょう。
こうして長く引き継がれているオリーブオイルの生産。
大きく変えたのは、今のオーナー、セバスティアーノ・ファッダ氏です。非常に高いクオリティのオイルを生産することで、その名を世界に知らしめました。
Luna Vera ルナ・ヴェーラ
真の月。
数年前にこのオイルをソムリエ同期から分けてもらい、その美味しさに驚きました。
それ以来、その美味しさを探るために、いつかそこに行きたいと思っていたのです。
まさか、こんなにも厳しい場所で作られているとは夢にも思いませんでした。
収穫までカウントダウンが始まっています。
再来週頃でしょうか。
少雨にも関わらず、こんなに健康な実をつけています。
白く見えるのは、虫よけに農薬の代わりに散布している粘土の一種。
これを丁寧に散布しているので、虫の被害に合っていません。
そうなのです。彼のオイルは有機栽培なのです。
こんな有機栽培のアシスタントも。
雑草を食べ、施肥を。
美味しいオイルを作るための彼の話を聞くと、何も目新しい事はありません。ただただ忠実に基本を守っているだけ。
私がセミナーでいつも説明する、美味しいオイルを作り届ける為の4つのキーワード。あれらを避けているのみです。
のみ。
と言っても、やはりこんな田舎の設備も整っていなければ、道だって最悪です。オリーブ畑に行く道はもちろん舗装なんてされていない、デコボコの悪路。
いろいろなことを理由に搾油が遅れれば、あっという間にクオリティは落ちてしまいます。
ファッダ氏がいつも利用している共同のフラントイオにも見学に行きました。
先進の設備が整っていました。
そしてそれだけでなく、とても清潔。
町にはいくつかあるけれど、ここを選んだのは、いつも清潔にしているからなんだ。と。
でも、実際搾油するときに、タイミングを図ったり、実とオイルの状態を確認して作業を進めるのはファッダ氏自身です。フラントイオの作業員は機械を操作するだけなのです。
事実、ファッダ氏が立ち会えない時があり、その時は自身のエキストラ・バージンとしては売れないものになってしまったと。
このオイルもテイスティングしました。
同じ畑の実から絞ったものとは到底思えないクオリティでした。
残念なオイルになることは本当に簡単です。
でも、こんな悪条件の中でも、真面目に、真剣に向き合っているからこそ、あの美味しいオイルが出来るのだと痛感しました。
もう一つ驚いたことが。
あのクオリティを本当に家族だけで作っていること。
収穫も家族と親戚だけ。出荷も4人の家族だけ。あらゆることを。
家族と言っても、うち2人はまだ10代の息子たちです。学校や宿題やサッカーや。
あの箱は息子たちが組み立てる担当。私より上手よ。と奥さんのジョバンナは笑います。
そして、セバスティアーノはなんと、もう一つ仕事をしてるのだそう。
オリーブオイルだけでは食べていけないから。と。
こんなにもハードでクオリティ高い仕事をしていても、それでは家計をカバーできないなんて。
オリーブオイル市場は世界的に拡大する一方です。大きく利益を増やしている業者がいる一方で、こうして知識と情熱を持って生産している人が報われない。
これも、私がセミナーを続ける理由一つ。
本当のオリーブオイル、美味しいオリーブオイルには理由があります。それに見合った対価を消費者は払わなくては。
でも、価格だけでは判断できないのは当たり前。その判断の助けに少しでもなることが出来れば、こんなに嬉しいことはありません。
今年、ここオリエーナには初夏以来ほとんど雨が降っていないとのこと。
もう3か月以上です。
一日のうちに、何度「砂漠のようだよ」という言葉を聞いたことか。
畑や品種によっては、オリーブの実は干からびていました。
これも。
でも、驚くことに、この実を潰すと、なんと中は瑞々しい果肉が!
葉をすぼめて水の蒸発を防ぎ、外皮を収縮させ、果肉を守っているのです。
これだけストレスが掛かった実からは、豊富なポリフェノールが期待できます。
きっと美味しいオイルになるはず。とセバスティアーノは言います。
ただし。
ただし、今週中に雨が降れば。です。
今週に雨が降らなければ、もうあきらめるしかありません。
オイルを絞ること自体やめるしかありません。
旅の途中。
これだけ雨を祈ったことはありません。
来年も美味しいLunaVeraと会うために。ファッダ家のために。
祈ります。
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この記事へのコメント
MONTA
しかも相当に苛酷な環境のようです。
良い物を作りたいという信念が無いと出来ないでしょうねぇ。
それにしてもオリーブはこのような環境でも育つんですか。
オイルにパワーが有るのもそれ故なのでしょうかねぇ?
MONTAさんへ。
はい、オリーブの木が古来からあるのはこうして過酷な環境に順応できるからです。
でも、多湿はだめです。乾燥にはとても強いのです。
おっしゃるように、植物は厳しい気候や害虫などの外敵から身を守るためにポリフェノールが出来るんです。だから美味しいんですよね~